キラキラした私。本当の私。SNSの「いいね」が育てるデジタルな建前

金曜日の夜、ようやく1週間の仕事が終わって、ソファに深く体を沈める。ほっと一息つきながら手にしたスマートフォンで、いつものようにInstagramを開いた。

画面をスワイプすると、目に飛び込んでくるのは、友人たちのキラキラした週末の始まり。 同僚の投稿には、予約困難なレストランでの豪華なディナーの写真。大学時代の友人は、パートナーと海外旅行を楽しんでいるらしい。会社の可愛い後輩は、『#丁寧な暮らし』のタグと一緒に、完璧に片付いたお洒落な部屋の写真をアップしていた。

「すごいな、みんな…」

自然と「いいね」を押す指先とは裏腹に、私の心にはチクッとした小さな棘が刺さる。テイクアウトしたコンビニのご飯と、脱ぎっぱなしの部屋着。そんな自分の現実と比べてしまい、胸が少しだけ重くなるのを感じた。

この、言葉にならないモヤモヤとした気持ち。 もしかしたら、あなたも感じたことがあるのではないでしょうか。

それは、現代社会が生んだ新しい仮面、デジタルな『建前』のせいかもしれません。

この記事では、多くの女性がSNSで無意識に演じてしまう『キラキラした私』の正体と、それに少し疲れてしまった心がふっと軽くなるようなヒントを探していきたいと思います。

これが私たちのリアル。SNSにあふれる「建前」の具体例

導入で触れた、あの言葉にならないモヤモヤ感。その正体を探るために、まずは私たちが見ている『キラキラ』の裏に、どんな「リアル」が隠れているのか、もう少しだけ覗いてみましょう。

あなたにも、心当たりはありませんか?

1. 一枚の写真に隠された「見えない部分」

週末の朝にアップされる、お洒落なマグカップと焼き立てのパンが並んだ『#おうちカフェ』の写真。陽の光が差し込む、完璧な一枚。でも、そのカメラのフレームの外側には、昨夜からシンクに置きっぱなしの洗い物や、まだ片付いていない雑誌が山積みになっている…なんてことは、よくある話。 私たちは、生活の「素敵な部分」だけを上手に切り取って見せる天才なのかもしれませんね。

2. 笑顔の集合写真に秘められた「本当の温度」

『#最高の仲間』『#ズッ友』というタグが添えられた、満面の笑みが並ぶ女子会の集合写真。一見、誰もが幸せで、悩みなんて一つもなさそうに見えます。でも、その写真を撮る直前まで、仕事の愚痴を言い合っていたり、実はグループ内のA子ちゃんとB子ちゃんの仲が少しギクシャクしていたり…。 その場の空気を壊さないための笑顔、楽しかった思い出として「記録」するための笑顔。その笑顔の温度は、必ずしも全員が同じではないのかもしれません。

3. ポジティブな言葉の裏にある「言えない本音」

「新しい挑戦!ワクワクしかない!」「失敗は成功のもと!」 キャリアや自己啓発に関する、前向きな言葉たち。周りを元気づけ、そして何より自分自身を奮い立たせるための、大切な言葉です。 けれど、その裏では、新しい環境への不安で夜も眠れなかったり、失敗して本気で落ち込んでいたりすることも。SNSでは、そんなネガティブな感情は「見せるべきではないもの」として、心の奥にそっと仕舞い込まれてしまうのです。

なぜ私たちは「デジタルな建前」を演じてしまうのか?

私たちのタイムラインは、みんなのちょっとした背伸びで彩られています。

でも、そうやって「建前」を演じてしまうのは、決して悪いことではありません。むしろ、その裏側には、とても人間らしくて、愛おしい気持ちが隠れているのです。

1. 「誰かと繋がりたい」という、自然な気持ち

人間が社会的な生き物である以上、「誰かに認められたい」「自分の存在を見ていてほしい」と願うのは、ごく自然なこと。現代において、SNSの「いいね」やコメントは、その繋がりを可視化してくれる大切なツールです。 「美味しそうだね」「楽しそうだね」――その小さな共感が、日々の生活の励みになる。だからこそ私たちは、みんなが「いいね」と言ってくれそうな、素敵な自分の一瞬を共有したくなるのです。

2. 周りの「キラキラ」が、少しだけ不安にさせるから

友人たちの楽しそうな投稿を見ていると、「それに比べて私は…」と、ほんの少しだけ焦りや不安を感じてしまう。そんな経験、誰にでもあるのではないでしょうか。 周りの人たちが輝いて見えると、「自分もちゃんと輝けているかな?」と確かめたくなる。そのささやかな不安が、「私も、こんなに素敵な時間過ごしてるよ」という投稿に繋がり、自分の心のバランスを保つための、一種のお守りのような役割を果たしているのかもしれません。

3. 「もっと素敵な自分になりたい」という、前向きな願い

SNSで「理想の自分」を投稿するのは、「こんな自分になりたい」という未来への宣言でもあります。 例えば、「#勉強垢」で目標を宣言したり、ジムでのトレーニング風景をアップしたりするのは、「見ていてね、私頑張るから」という、自分自身と、そして周りのみんなへのポジティブな約束。 デジタルな建前は、時として自分を励まし、理想に近づくためのモチベーションになってくれる、頼もしい味方でもあるのです。

「SNS疲れ」の正体は「建前疲れ」だった

私たちがSNSで自分を表現するときの気持ちは、とても自然で前向きなものです。

でも、その「もっと素敵に見せたい」という頑張りが、いつの間にか自分を追い詰めて、心をすり減らせてしまうことがあるのも、また事実。

なんとなくSNSを開くのが億劫になったり、友人たちの投稿を素直に「いいね」と思えなくなったり…。多くの人が口にする「SNS疲れ」という言葉。その正体は、もしかしたら「建前疲れ」なのかもしれません。

最初は、日常の小さな幸せをシェアする、楽しい場所だったはず。 それがいつからか、「何か投稿しなきゃ」「『いいね』がたくさんつくような、キラキラしたネタはないかな?」と、義務感やプレッシャーに変わっていく。

24時間365日、誰かに見られていることを意識して、「素敵な私」という舞台に立ち続ける。そんな風に、無意識のうちに心が緊張状態になってしまうのです。

そして、何より辛いのは、「リアルの自分(本音)」と「SNS上の自分(建前)」との間に、少しずつ溝ができていくこと。

SNSの中の私は、いつもお洒落で、アクティブで、人間関係も良好。 でも、現実の私は、部屋着でゴロゴロするのが好きだし、仕事で落ち込む日も、誰にも会いたくない日だってある。

そのギャップが大きくなるほどに、「私、嘘をついているみたい」という罪悪感や、誰にも本当の自分を理解してもらえないような孤独感が、心をチクチクと刺すのです。キラキラした投稿をすればするほど、なぜか心が虚しくなっていく…。

それが、『建前疲れ』のサインなのかもしれません。

デジタルな仮面と上手に付き合うための3つのヒント

ここまで読んでくださったあなたは、きっとSNSの『キラキラ』に少し疲れながらも、周りの人を傷つけないように、そして自分自身を高めようと頑張っている、とても優しい人なのだと思います。

『建前』を演じてしまう自分を、もう責める必要はありません。 その仮面を無理に剥がす必要もありません。

ただ、少し重たくなったその仮面を、時々そっと外して、心を休ませてあげる時間を作ってみませんか? 最後に、あなたの心がふっと軽くなるための、ささやかなおまじないを3つ、ご紹介します。

1. スマートフォンを置く「余白の時間」を作る

一日に一度、ほんの15分でも構いません。スマートフォンを少し遠い場所に置いて、SNSを見ない「余白の時間」を作ってみましょう。 その時間は、好きな音楽を聴いたり、温かいハーブティーを淹れたり、ゆっくりお風呂に浸かったり…。誰のためでもない、あなただけの、あなたを癒すための時間です。デジタルな喧騒から離れることで、心のざわめきが静まっていくのを感じられるはず。

2.「本音」を話せる“心の避難場所”を持つ

どんなあなたでも受け入れてくれる「心の避難場所」はありますか? それは、何でも話せる親友かもしれないし、家族や恋人かもしれません。あるいは、誰にも見せない日記帳かもしれません。 SNSでは言えないような愚痴や弱音、不安な気持ち。それを安心して吐き出せる場所があるだけで、心は驚くほど軽くなります。『建前』の鎧を脱いで、ありのままの自分でいられる場所を、どうか大切にしてください。

3. 「誰かの評価」から「自分の『好き』」へ

SNSに投稿する瞬間、あなたの心にそっと問いかけてみてください。 「私は、『いいね』がたくさん欲しいのかな? それとも、この瞬間が本当に『好き』だから、残しておきたいのかな?」と。

誰かの評価をものさしにするのではなく、目の前のケーキを「美味しい」と感じた気持ち、窓から見えた夕焼けを「綺麗」と思った、あなた自身の心の動きを一番大切にするのです。

そうすれば、投稿は「誰かに見せるための課題」ではなく、「自分の『好き』を集める宝箱」に変わっていくはず。周りの反応に一喜一憂することなく、あなたが心から愛おしいと感じた瞬間だけを、そこにそっと集めていけるようになります。


最後に。

デジタルな『建前』は、社会と、そして自分自身と上手に付き合っていくための、現代の処世術なのかもしれません。 大切なのは、仮面を捨てることではなく、いつでもそれを外して休める「本当の自分」の居場所を知っておくこと。

疲れたり、悩んだりする不器用なあなたも、前を向いて背伸びする健気なあなたも。 『欲(本音)」も』『建前』も、すべて含めて、かけがえのない、あなた自身なのですから。

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